iPS細胞技術を応用した医薬品心毒性評価法の国際標準化を目指して

はじめに

ヒトiPS分化細胞を用いた毒性・安全性評価法を開発し、非臨床試験に取り入れることは、ヒトへの評価を現状の臨床試験より前の段階で開始でき、創薬におけるコストの削減、開発期間の短縮が期待できます。我が国では、健康・医療戦略(平成26年7月22日閣議決定、平成29年2月17日一部変更)において、「iPS細胞技術を応用した医薬品心毒性評価法の国際標準化への提言」が平成32年頃までの達成目標とされています。

PEIJは、国のコンソーシアムJiCSAのメンバーとして、データシェア等の国際的なルール等の調整、データ解析アルゴリズムの作成・公開(iPS Integrated Safety Assessment Tool (iSAT)」の平成28年度完成に伴い、iSAT平成29年度国立医薬品食品衛生研究所に移管予定)、JiCSAデータのアーカイブ化の環境づくり(平成28年度完成に伴い、iSATとデータを格納できるサーバ・ストレージを平成29年度国立医薬品食品衛生研究所に移管予定)等を担いコンソーシアムの下支えを行っております。 

また、国際的にリサーチコミュニティで使えるよう、オープンサイエンスに資する各種MEA機器のrawデータを取り込み共通バイナリデータに変換する「MEA Parser」の作成・国際公開を通じまして国際的なデータベースに係る標準化において、積極的に役割を果たしてまいります。

これらを通じまして、「iPS細胞技術を応用した医薬品心毒性評価法の国際標準化への提言」の実現において役割を果たしております。

PEIJ設立の背景

米国では、平成25年末に、FDAも参加するComprehensive in vitro Proarrythmia Assay(CIPA)が、臨床試験におけるTdPリスクの評価に係る新しい手法の取り入れを促進するため、国際的活動をスタートさせました。
PEIJは、平成26年1月にそのような米国の状況を認識し、当時国内でiPS細胞技術を応用した医薬品心毒性評価法の開発・検証活動を開始されようとしていた国立医薬品食品衛生研究所(NIHS)、ヒトiPS細胞応用安全性評価コンソーシアム(CSAHi)、日本安全性薬理研究会(JSPS)の本件に係る取り組みが日本国内で推進されますようその下支えの役割を担うことを目指し、平成26年5月12日に設立しました。
PEIJは、米国のCIPA、NIH/NCATS、California Institute for Regenerative Medicine、英国のCell and Gene Therapy Catapult等の役割を参考として、iPS細胞技術を応用した医薬品心毒性評価法の国際標準化等、新たな評価法の信頼性等の向上を目指して次の取り組みを行うことを強く志しました。
  • 検証体制の強化に資する法務支援、検証作業の場の提供等の取り組み
  • テクニシャン等の若手の人材育成
  • 解析アルゴリズム等データプラットホームの形成
  • プロトコール用パテントのコーディネート等
  • 評価法の具体化等に資するOrgan-on-a-chipを活用した研究開発・試験
 

PEIJの取り組み

  • 『解析アルゴリズム等データプラットホームの形成』として、iPS Integrated Safety Assessment Tool (iSAT)を開発し、完成させ、国内研究班内の検証メンバーに提供開始しました。[平成29.02.17](詳細:【データの解析、多角的な視点からの評価を、迅速かつ簡便に行える支援ツール(iSAT)の完成(国内)】)
  • 『検証体制の強化に資する法務支援』として、CIPAとのデータシェアポリシーCIPA Guiding Principlesを調整しました。[平成26.12.04]
  • 『検証体制の強化に資する法務支援』として、データシェアポリシーであるJiCSA一般指針を取りまとめました。[平成27.05.22]
  • 『テクニシャン等の若手の人材育成』として、サンディア米国立研究所におけるlab-on-a-chip researchに係るリサーチレジデントの3週間の研修をコーディネートしました。[平成28.01.25-02.12]
  • 『テクニシャン等の若手の人材育成』として、主任研究員の雇用を開始しました。[平成28.04.01]
  • 『検証作業の場の提供』として、LICにおいて次世代評価法の検証作業の場の提供を開始しました。[平成28.07.01]
  • 『評価法の具体化等に資するOrgan-on-a-chipを活用した研究開発・試験』として、PEIJチップセンターの運用を開始しました。 [平成29.01.07]
 

データの解析、多角的な視点からの評価を、迅速かつ簡便に行える支援ツール(iSAT)の完成(国内)

iPS細胞技術を応用した医薬品心毒性評価法の信頼性等の向上を目指すためには、測定データの自動データ処理に係るアルゴリズムの利用が有効です。また、研究者がデータの解析、多角的な視点からの評価を、迅速かつ簡便に行える支援ツール・システムが有効です。    

PEIJは、国のコンソーシアムJiCSAのメンバーとして、平成26年度に解析アルゴリズムの要素開発、平成27年度に解析アルゴリズム等の統合データプラットホーム(iPS Integrated Safety Assessment Tool (iSAT))のプロトタイプの開発を行いました。平成28年2月25日には、iSATのプロトタイプへのご意見をいただく会を開催し、平成28年5月12日の班会議においても、iSATの最新作成状況を報告しました。
また、先のプロトタイプへのご意見をいただく会の際に、iSATの解析アルゴリズムのスタンドアローンな形での研究者(製薬企業等)への提供が新たなニーズとしてあがりました。これは、国プロ以外で取得した実験データについては製薬企業等から外部への持ち出しが困難であることに起因しています。

当該評価法の発展のため、平成28年度は、解析アルゴリズムの国内製薬企業等への配布が可能(スタンドアローンでの使用が可能)となるよう、セキュリティーの対策を講じたユーザーフレンドリーな改善を含め作業を行い、iSATを完成させました。平成29年2月17日には、国内研究班内の検証メンバーに、iSAT の提供開始しました。平成29年3月2日には、国内研究班内のメンバーを対象に、iSATを用いたワークショップを開催しました。

今後は、iSATを小型サーバーに実装し、製薬企業数社にてMEAの検証試験データ解析に使用し実証頂くことで、検出精度および使い易さの更なる向上を目指すことが課題となります。

国際的なデータベースに係る標準化に向けて(国際)

国際的には、HESI Cardiac Safety Committee Myocyte Database Subteamにおいて、Myocyteデータ単独での解析・検証だけではなく、ChEMBLの臨床データとの接続、イオンチャンネルデータやO’Hara-Rudyモデルとの関連づけによる解析・検証が行えるデータベースの検討(国際的なデータベースに係る標準化)がなされています。我が国としては、我が国の検証実験データ・検証方法を活かすためにも、HESI Myocyte Database Subteamに参画するなどして、国際的なデータベースに係る標準化において、積極的に役割を果たすことが重要です。
そのため、PEIJは、
  • 平成28年8月8日のHESI Myocyte Database Subteamに参加し、iSATの概略について紹介し、
  • 平成28年9月16日のHESI Myocyte Database Subteamに参加し、MyocyteデータとイオンチャンネルデータやO’Hara-Rudyモデルとの関連づけを行うことの意義について発言し、次回以降の会合で、iSATのデモンストレーション行うことと、O’Hara-Rudyモデルと関連づけるためのデータの統合の仕方について議論することとし、
  • 平成28年10月27日の米国(ワシントンDC)において開催されましたHESI Myocyte Database Subteamに参加し、iSATの紹介を行うとともに、iSATにおける解析アルゴリズムを紹介しました。
平成28年10月27日の会合では、本件に係る国際的なデータベースの標準化について議論が行われました。その議論を受け、本件に係る国際的なデータベースを国際的にリサーチコミュニティで使えるよう、各種MEA機器のrawデータを取り込み共通バイナリデータ(データフォーマットを合わせて公開)に変換する「MEA Parser」の作成・国際公開を行いました。

MEA機器のrawデータを取り込み共通バイナリデータに変換する「MEA Parser」が国際的にリサーチコミュニティで使えるならば、国際的なデータベースにrawデータを格納する意味合いがでてきます。「MEA Parser」によりMaestroを持っていない研究者もMaestroのrawデータにアクセスできるようになり、一方、MED64を持っていない研究者もMED64のrawデータにアクセスできるようになれば、多くの方にとって有効と考えられます。また、rawデータが格納されたデータベース等から「MEA Parser」を用いてMEA機器のrawデータを取り込み共通バイナリデータに変換することにより、手持ちの解析ソフトでの波形解析が可能となり、新たな評価項目(Endpoint)を開発できる可能性もでてきます。

そのような観点から、我が国で「MEA Parser」作成し、国際的にリサーチコミュニティで使えるよう「MEA Parser」を公開することは、iPS細胞技術を応用した医薬品心毒性評価法の標準化・発展のために非常に重要な国際貢献となると考えており、HESI Cardiac Safety Committee Myocyte Database Subteamからもその公開が期待されました。

「MEA Parser」(MEA機器:Maestro、MED64のrawデータに対応)を、平成29年2月17日には、国内研究班内の検証メンバーに公開し、平成29年4月3日には、海外の研究コミュニティにも公開いたしました。また、MEA機器:MCSのrawデータにも対応した「MEA Parser」を、平成29年8月1日に公開いたしました。これにより、主要なMEA機器:Maestro、MED64、MCS、全てに対応できることになります。引き続きDatabase Subteamに参画するなどして、国際的なデータベースに係る標準化において、積極的に役割を果たしてまいります。
なお、平成29年4月19日、HESI Stem Cell Working Groupが開催され、その中で、Database Subteamの進捗状況について紹介された中で「MEA Parser」の公開につきましてもその進捗として紹介していただきました。


引き続き、HESI Cardiac Safety Committee Myocyte Database Subteamへの対応等を通じて、我が国の検証実験データ・検証方法を活かすためにも、これまでのMyocyteデータ単独での解析・検証だけではなく、イオンチャンネルデータやO’Hara-Rudyモデルとの関連づけによる解析・検証に参画し、役割を果たすことにより国際貢献を行い、健康・医療戦略(平成26年7月22日閣議決定、平成29年2月17日一部変更)における「iPS細胞技術を応用した医薬品心毒性評価法の国際標準化への提言」での役割を果たしてまいります。